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名越康文先生
精神科医 ミュージシャンTHE BARDIC BAND
Tokyo

微妙なことこそ、世界を表している

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もっと、クリエイティブにいきたい。それが精神的放浪の旅の始まりでした。

本当に伝えたいことは「微妙なこと」​。

いま獲得しているものの中で「まだ言語化できてないこと」を伝えられる。

そのような「教師」でありたいと思っています。

ー この質問は皆さんにさせて頂くのですが、私の活動名の「H SEEDS」。ハピネス、ハート、ホープの頭文字Hのタネ。もし、名越先生が、「この人生に撒いている種」があるとしたら、それはどんなものだと思われますか?

「LUCY  ルーシー」という映画を見たことがありますか?スカーレット・ヨハンソン主演のSFアクション映画。

 

ストーリーを簡単に言うと、無理やり麻薬の運び屋にされたスカーレットが演じる女性、麻薬といっても未来の薬、青い粒なんだけど。

 

お腹の中に入れられたその薬が溶け出して、脳が覚醒していくの。

 

我々人間は10%しか脳を使っていないと言われるけど、100%覚醒していくという不思議な話。

 

どんどん脳が覚醒するから、自分の余命も知ることになるの。それで最後をどうやって過ごしたらいいかって、モーガンフリーマン演じる大学教授に聞くのよ。

 

ほんなら「人間の最終的な、無意識な目的は、あなたが得たものを誰かに伝えることだ」って言うの。

 

感動でしょう?

もう〜、物凄いって思って(笑)

 

「人間が最後に欲望、そして最終的に欲望するものは誰かに伝えること。君も獲得したものを伝えろ」って。

 

その伝えることって、いまの人類の低レベルな知識ではないと分かっている。

 

それは、覚醒した精神性のこと。

 

たった80分のあんまりヒットしなかった映画ですが(笑)ほんと心が痺れた。

ぜひ、見てください。

ー 何か、その超えたものを残す。それが種でしょうか?

 

半自覚的に、僕が獲得した「自分の中の確信」を人に伝えたいと絶えずしています。

 

僕の人生の半分は、実はあまり好まないが「教師」としての役割を果たしていますね。もし魂があるとしたら、それは魂のレベルなことで決して僕が望んでいることではないです。

 

それが僕の小さな特徴かもしれません。

 

人類なんて、そんなに伝えられることを獲得したとは僕は思わない。そういう自分が「教師」をやっていますね。

 

盛んに伝えることをやっていると認めます。だから、どっか自分の中で自分を軽蔑しているのかもしれない。

 

そんなことインタビューで言うたのは、初めてだね。



 

ー 「教師」と「教える」ことはもしかすると別な...。

 

過去に知っていることを話すのは、言語化が出来てないものを伝えるための段階としてあっても、いま獲得しているものの中で「まだ言語化できていないこと」を伝えられる。

 

そのような「教師」でありたいと思っているのかもしれません。

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ー いまある知識は全てAIの中に、だから逆にまだ言語化出来ていない、出来そうにもない中にこそ大事なものがあるように思います。

 

言語化するとき、必ず尾っぽは切られている。

 

「微妙なことこそ世界を表している」わけですよ。本当に伝えたいことはその「微妙なこと」。

 

「世界が美しい」と思うのは、どんな時に思いますか?

 

ちょっと詩的に言えば夕日が沈んでいる瞬間とか、朝日が登る瞬間などじゃない?

 

その瞬間に、世界は美しさを見せるでしょう?



 

ー はい、そう思います。

 

微妙なことを伝えるのは、本当は言葉に出来ないことなのですよね。

 

例えば、ここでAさんとBさんが出会った時に、その感応の中で言語化していますよね?半分私的言語ように。

 

その私的言語こそが一番「客観的」だって、僕は思っている。何故かって言うと、「世界」そのものに肉薄しているから。



 

ー なるほど。分かれば、分かるほどに...

 

一番正確にその見た景色、例えば綺麗な夕日を写像すればするほどに「客観的」と言えない。

 

私的言語は、ギリギリなところなんですよ。だからそれが、もっとも客観性だと僕は思っている。

 

もう大体ここまでくると殆どのインタビュアーはついてこれない。君は辛うじてついてきているわ。素晴らしい(笑)

 

これは威張って言っているのじゃないよ、客観的にみていっている。こんな話、どこで話しても書いてくれない。

 

だって理解できへんもん。

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ー (笑)難しいです。ただ、今朝早く神社にお参りに行ってきたのですが、そこですれ違う人が「おはようございます」とお声かけてくれて。その瞬間に「美しい」って思ったので、お話を聴きながら思い出しました。

 

そう、瞬間に見せるでしょう?

 

ゴッホ(画家)の「糸杉」って絵画があるでしょう?あれ、最高傑作と呼ばれているらしねん。僕は、「へーっ」て思ったの。

 

と言うのは、今から40年以上も前の話ですが、朝日新聞の日曜版でカラーで掲載されたものを、父が僕の部屋に貼っていてくれていた。

 

もうひとつは夜のパリのカフェの絵、だったかな?どっちも全然意味が分からなかった。「なんやこの絵は?」って思っていた。

 

それがこの間テレビで見たときに「うわっ!動いている」と思った。初めて絵が本当に動いていると思った。

 

それも瞬間だよね。

 

  

 

ー 先生の仰るその「伝える」こと。これを伝えたいと思う様になる直接なエピソード。子供の頃のそれは、どんなことがありますか?

 

シンプルな話やけど、子供の頃カソリック系の幼稚園に通っていた。

 

ある時期、園の教会が工事で、旧教会で礼拝にすることになったの。その部屋は畳の部屋で、子ども達がザーッと100人くらい座って。

 

確かニュージーランドからいらしたシスターが「神様の話」をし始めた。

 

僕はその話を聞いていなかったのだけど。春先の頃だったのかな?

 

昼過ぎの光がバーっと部屋に入ってきて、その光に映った埃がふわって舞っていて、キラキラと見えた。

 

「あっ、神様がいてはる!」と、僕は思った。

 

それが多分、始まりですね。



 

ー 何かを感じたのですね。それが伝えたいと気持ちが変化していくのですね?

 

いや、だから本当は伝えたくないんですよ。

 

そこが「教師の一番の煩悩だ」って思うところなのですけど。あっ、これは自分がやってきたから言えるのですよ。

 

伝えたいのではなくて、一生懸命やって気づいたら「伝えている」。

 

そこの領域なんですよ。



 

ー うん...、”伝えない”を、伝えることなのかしれませんね。

 

それが本当に伝えることだと思っている。

 

「伝えたくない」って言って、伝えるのが僕の悪い癖ですね(笑)自虐的にいうと、今伝えられることを伝えることのは、食べていく手段。

 

伝えたいことは、もっと大きなことを感じているのだけど、まだまだ技能が足りなくて、その一部しか伝えらなれない。



 

ー 伝えないを伝える。その言語化されないことを伝える方法って難しいですよね?

 

それこそ谷川俊太郎さん(詩人)にお会いして、谷川さんの立ち位置でみたとき、そういうものを言語化することで、営みにされている人がいるんやなって思います。

 

今やっている「音楽」で、それを伝えようと思っているのですか?ってよく聞かれるけど、それは違っていて、音楽はもっと純粋に衝動的にやっている。

 

もっと沢山の方に、僕の音楽を聞いて欲しいって渇望するくらいに思うのだけど、それが見えないものを伝えるためですかというのは違う。

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ー 少しYoutubeで聞かせて頂きました。先生の声はとても個性的ですよね。では、先生が音楽に向かったきっかけは、どんなことだったのですか?

 

小さい頃から音楽は大好きだった。

 

でも、音楽をやることを諦めていたのね。自分で歌手になる願望はなくて、僕はもの凄く「バンド」をやりたかったから。

 

バンド言うたって、僕はドラムもギターもできないから諦めていた。

 

それがあることがきっかけで一流ミュージシャンたちと出会って。これはみんなのお陰で、本当にラッキー以外ない。

 

それで 「THE BARDIC BAND」をスタートした。



 

ー 子どもの頃からの夢を!

 

うん、叶いつつある。

 

武道館を一杯にしないと、叶えたことにならないけど(笑)

 

これも僕なんて55歳から始めたから、昔で言うたら定年だよね。



 

ー 夢を思い出すというか、時間が経ってしまうと実現していくのはもっとエネルギーが要ること。だらこそ、ご縁がないと形にしていけないものかもと思います。

 

全ては、「人と人との出会い」ですね。

 

先生は、テレビとかラジオに出ているからって言うけど、違うのです。確かに他の人よりは何人かタレントさんを知っているとは思いますけど、これはそういうことではない。

 

出会いは、平等なんですよ。

 

「出会いがすべて」色々なところで言うけれど、本当に全てと思っている人はいないやんか?

 

「出会いしかない」って、これ本当に分かったら人生変わると思う。



 

ー その奥に気づくかなのですね?

 

そう。出会った人の中から、宝石のようなもの見つけて大事に思うかってことですね。

 

お弟子さんたちの関係も、自分なりに大切にしています。色々な職種の人、色々な立場の人がおられますが、分け隔てなくお付き合いさせて頂いています。

 

それは弟子達もわかってくれていると、僕は自信があります。



 

ー 私もご縁だけ(移動生活)でここまで生きてこれたのでわかります。こうして先生ともお会いさせて頂いて、そのオープンさが素敵だなって。

 

それはあなた、ただもんじゃないと思ったからですよ(笑)

 

そう意味では僕は差別的よ。この人は既存の中に生きている方だなって思ったら、僕は歯牙にもかけない所があるらしい。(笑)

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ー ありがとうございます。シンガポールから「辺境ラジオ」を聞いていたので光栄です。先生のその嗅覚は、どこから来るのでしょうか?

 

そりゃ言語化ができないな。

 

ただ、普段から「出会いこそすべて」と思っているからでしょうね。



 

ー 先生のクリエティビティな活動は、他にどんなことをされているのですか?

 

音楽を作る全て。

 

歌うのと作詞&作曲しています。

 

それがな、ほんま。いま1週間くらい曲が書けなくてね。ハードルが上がっているのだと思うのですが、クリエイターにとってね、完璧を求めることマズイことはないのですよ。

 

止め処ないでしょう?僕は、根はネガティブだから。

 

 

 

ー そうなのですか?

 

15年前に東京に出てきた時も、大阪で診療を続けながら、ちょっとずつ、ちょっとずつ周到にやってきた。

 

僕ほど小心な者はいない。

 

ひと月に3日だけ東京にくるという生活を、1年間かけてちょっとずつ顔を覚えてもらって、名前を知ってもらって、それでやっと東京に進出したのです。



 

ー そうだったのですね。でも、どんなことがそんなに恐怖だったのですか?

 

食べていけるかって。

 

東京で診療することは全く考えていなかったので、僕が精神科と心理学の知識を使って、メディアで何か出来るかとしか考えてなかった。

 

これは僕の思い込みなのかもしれないけど、やりたい思いがあってもジリジリとしか進められない。

 

あなたの要素、その大胆な思い切りの良さが僕にあったら、今頃もっと大物になっていたと思う(笑)



 

ー いえ、単なる無鉄砲で失敗ばかりです。(笑)ただ、これまではご縁で生かされてきたと思っています。

 

僕のいう失敗というのは、ブラックな方へいくこと。

 

ご縁というのも無意識に自分が導いているものだから。



 

ー 先生は、これまでの経験を超えて、50代半で新しい道に行かれた。挑戦してみようという想いは、どんなものからだったのですか?

 

今の自分が必要だから。

 

渇望があるから知りたいと思う。



 

ー 渇望からなのですか?

 

いい音楽を作りたい。バラードをいつか作りたいと思っている。

 

これは渇望ですよ。

 

だから音楽をもっと知りたいし、自分の前頭葉の付き合い方を学びたいし、自分の感情のコントロール、客観視すること、どうこの高揚感を音として表すか?

 

その「自分の脳と心の乗りこなし」を学びたい。



 

ー 自分の脳と心の乗りこなし?何かしたいという「夢」ではなくて、枯渇、もう内側からという感じなのですね。

 

「〜(夢)したい」って、自分に対しての言い訳のことがあるでしょう?

 

人が「自分は、〜という夢や希望を持っているのです」って言うのは、それは希望を持っているから、今はやらなくていいやって、ことかもしれない。



 

ー なるほど。確かに遠くにある感じ。

 

それって、沢山の人が引っかかる「罠」なんですよ。「いつか」とは、僕の場合は言い訳。

 

今、何かすでに動き出していることが「夢」なのですよ。だから、1000分の1でも動きだしていればいいのです。



 

ー その枯渇しているというそれは、どこから来るのでしょう?

 

それはもう歳だからですよ。

 

20代の10年と、60歳近い人の10年は全然違う。感覚でいうと3年やな。年齢をいけばいくほど、時間は短いかく感じるもの。



 

ー 先生のその時間の中で、「如何に自分を乗りこなすか」と思っているのですね?

 

もう少しファンタジーチックに言うと、「どう自分の心を乗りこなすか?」



 

ー それは自分の限界をぶち破っていくってことなのでしょうか?

 

曲を作っているということは、毎回限界を破りにいっているということ。

 

正解のないことをやっているのだからね。誰にも求められていない様なことをやっている。

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ー これまでをふりかえってみて、もし、自分の人生から問われると質問があるとしたら、それはどんな問いだと思いますか?

 

「お前、真面目にやっているか?」ということです。

 

それは倫理的にということではなくて、一日一日をほんまに大事にやっているか?という当たり前のこと。



 

ー 毎日をジリジリと大事に。

 

原稿を書くことだったり、音楽だったり「これは意味があることか?」って、自分の「人生さん」から突きつけられているかもしれません。

 

意味があると大手を振って言えるのは....、2割くらいかな。

 

でも、その2割はハッキリわかる。うん、「意味がある」とハッキリと!



 

ー いいですね!そしてクリエイティブを生きる。

 

ある意味、純粋ですよね。



 

ー その中に美しい瞬間が見つけられるように思います。さて、次回の先生のライブは、どこで聞けるのでしょうか?

 

2019年10月23日に祐天寺にある「FJ’s」で行います。来て頂けると嬉しいです。

Dr yasufumi nakoshi

精神科医、ミュージシャン(THE BARIDIC BAND)、作家、映画評論家、漫画分析、テレビ・ラジオコメンテーター。最新著書「精神科医が教える 良質読書」をはじめ多数出版。名越康文研究室、心理学、仏教、哲学、文化などの枠組みを超えて、人の生き方を探求する会員制動画チャンネル。混沌の時代を生き抜く知恵とエネルギーを配信中。

 

名越康文研究室

http://nakoshiyasufumi.net/

 

名越チャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCT0q8NipPzU_G4yUtcAhKag

 

The Original 5 (ライブ10月23日)

http://fjslive.com/ 

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